あらすじ
新地天満屋のお島は、馴染客の貞と芝居見物をした後、道頓堀川を屋形船で帰ろうとする途中、お島に想いを寄せる市郎右衛門に出会う。市郎右衛門は妬ましさのあまり、浄瑠璃に託してお島の不実を当てこすり、貞と恋の鞘当に及んだ。
市郎右衛門の弟善次郎は借金取りに追い回されて、父の介右衛門が講中から預かっていた冥加金を盗み、見つかりそうになって徳利の中へ隠し入れる。そこへ帰ってきた市郎右衛門は、酒を飲もうと徳利をあけると金が出てきたので驚き、これぞ天からの賜り物と懐中に押し込む。それを父親の介右衛門に見つけられ、講中満座の中で、盗人と決めつけられて、勘当されてしまう。
心中を覚悟した市郎右衛門は、夜更けに天満屋の軒先に忍び込み、お島と密かに偲び逢う。そこで二人は、数珠を一万遍繰り終わった時を合図に、それぞれ別の場所で死のうと約束をする。二人の体は離れ離れではあったが、お互いの魂がからみつき、さ迷い、ついに数珠繰りも約束の一万遍となり、お島は天満屋の二階で、市郎右衛門は長柄の堤で同時に命を絶った。
兄を心中に追いやった善次郎が、せめてもの報恩にと、兄の死骸を衣装に包んで立ち去ったため、その後世上には市郎右衛門は死んだとも、死なぬとも、二様の噂がたったのである。
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