あらすじ
古道具屋を営む笠屋長兵衛には、お亀という瑞々しい一人娘がいた。お亀は、幼馴染みの与兵衛を婿養子に迎えたが、元服したばかりの若い婿と、古風で堅物な舅の仲に隔たりが生じるようになって、ついに夫の与兵衛は家を出る。
お亀は、夫の無事を祈願して、祝い月の五月に二十二社廻りに出立した。その帰り道、黒格子のお辻という占い上手な神子の家に立ち寄り、夫の口寄せを頼むんだ。
神子口に現れた与兵衛の言葉は、父親の妾今への恨みつらみであった。神子の家を辞したお亀は、表で偶然与兵衛に出会い、「どうして戻ってくださらぬ。わたしはどうなろうとかまわぬ気か」と与兵衛にすがりつく。
そこへ父親が、妾の今を連れてやって来る。町の会所に預けた譲り状を、義父の使いと偽って持ち出したのはなぜかと与兵衛に詰め寄る。実は、今の弟伝三郎の口車にのせられて譲り状を持ち出したのだが、開封してみると中身は伝三郎から聞かされていた内容とは違っており、与兵衛は伝三郎に陥れられたと悟る。が、長兵衛の怒りは収まらず、お亀と与兵衛の二人はまた引き離されてしまう。
長兵衛の留守中に、お亀が白無垢を仕立てていると、与兵衛がひょっこり帰って来る。そこへ、伯母が二人の行く末を気遣ってやって来て、与兵衛とお前の肌着をこしらえなされと緋縮緬を与える。
長兵衛が帰宅し、与兵衛は大慌てで蔵に身を隠すが、長兵衛は蔵に錠がおりていないのに気づき、無用心と錠をおろしてしまう。蔵に閉じ込められてしまった与兵衛は、こうなる上はお亀と二人で逃げようと腹を決めて、蔵の壁を崩しにかかる。そこへ伝三郎がやってきて、お亀に言い寄るが、壁を壊し飛び出てきた与兵衛が伝三郎に飛びかかり、お亀は難を逃れる。騒ぎに気づいた長兵衛は、与兵衛を捕え、蔵の家尻を切ったと与兵衛を追い出す。
夜中、人の足音にお亀はそっと二階の障子を開けて覗くと、与兵衛が悲しみにかきくれて通りに立っていた。お亀は、窓から白無垢に緋縮緬を結んで下ろし、窓から伝い降りて、二人は死を急そいだ。
与兵衛がお亀の喉を切り、続いて自分も死のうとしたが、動転してもたついている内に刃を沼に落してしまい、一人生き残ってしまった。
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